午後の微睡んだ空気が漂う時間、トイレへ行こうと廊下に出た私の鼻を、彼の匂いが擽った。
残り香が私を翻弄する。
廊下にはエレベーターとトイレと、非常階段へ続く扉。
なぜだかその先に彼がいるような気がして、ちょっとした好奇心が私の足を動かした。
静かに扉を開けると、外の景色を眺める彼の後ろ姿が見える。
所謂、黄昏ていた。
「加賀くん?」
「ん?おーお疲れ……」
「何黄昏てんのよ」
「んー……小休止ってとこ」
爽やかな香りが微風に舞う。
隣に並んで同じ景色を見ているのに、私の全神経は彼の香りを感じて逃れられない。
「清水さんこそ黄昏に来たの?」
またふわり。
思わず振り向くと、彼の涼しげな瞳が私の瞳を捕らえていた。
「うん、まぁそんなとこ」
景色に目を戻しながら応える。
ふわり。
彼が身動ぐたびに、微風が通り抜けるたびに、 私の体は彼の香りに支配されていく。
気付くと、私は彼を見つめていた。
そしてその視線に応えるように見つめ返す彼の瞳。
その瞳に吸い込まれるように私は彼の腕に手を伸ばした。
次の瞬間。
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