「相沢!」
退社時刻が過ぎて、静かなオフィスに私を呼ぶ声が響く。
呼ばれた方向に目を向けると、メモ帳を持っている課長が立っていた。
「ごめん。ちょっとそれ貸してくれ」
どうやらメモを書きたくても、普段彼が愛用している相棒が行方不明らしい。
「ありがとう、助かった」
課長はメモを終えると、すぐに忙しそうにオフィスから出て行ってしまう。
再び一人になると「痛って〜」と声がした。
「なんちゅー筆圧だよ。あれじゃ、先端が潰れてすぐにインクが出なくなる。あ〜あ、手はいい感じにフィットしてたのに残念だ」
やれやれと肩をすくめる私の彼。
そんな彼の言葉を聞き流しながら仕事に集中する。
「あ〜、やっぱりおまえは最高だな。手はやわらかいし、筆圧も丁度いい。おまえに出会えて幸せだ」
「……私もアナタに出会えて幸せよ。アナタ以外考えられない」
そう言うと、彼は得意げにニシシッと笑った。
仕事に欠かせない私の彼。
一度でもアナタという存在を知ってしまったら、もう離れられない。
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