時計の針が9時を指す。節電対策のフロアには、奥にに灯りが見えるだけ。今日はわざと残業した。彼が、まだ戻っていなかったから。「戻りました〜。」そう言って、あたしの左隣、こちらにデスクを向けている席に、主が帰ってくる。「主任、おかえりなさい。お疲れ様です。」声をかけると、一瞬、優しい視線とぶつかって。「まだいたのか、佐々木もお疲れ。」長すぎない、サラサラの黒い髪。くっきり二重の、意思の強そうな目元。その爽やかな笑顔は、社内の女子を虜にする。