店長が目を閉じたまま微笑んだ。 これも反則。私が今までどんな気持ちで店長を見てきたと思っているんですか。 安心しきって眠っているかのような表情に、ふいに店長の前髪に触れてみたいと思った。
「眠ったんですか?店長」
返事はない。寝ちゃったのかな。それなら髪に触れても気付かないかな。触れたい情動に駆られて、手を伸ばす。
「触れたら俺の忍耐も限界だぞ」
目を閉じたまま、店長が言った。驚いて手を止めると、目を開けた店長が私を見上げた。
「オマエの男が来ても、帰さないからな」
初めてオマエと呼ばれた。店長が体を起こして、伏し目がちに笑う。
「いつもそう言いそうになっては抑えてたのに、気付いてないんだもんな。罪づくりな奴だよ、まったく」
ネクタイを緩め、溜め息を漏らす店長の顔をじっと見つめた。
「そんな風に見るな」
私だっていつも抑えていた。でも、もう無理。右手を伸ばし、店長の前髪に触れた。
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